東京高等裁判所 昭和36年(く)60号 決定 1961年7月20日
少年 H
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、原審は少年に対する恐喝保護事件につき昭和三十六年五月十二月少年を中等少年院に送致する旨の決定をなした、しかし、少年は、事件後大いに改悛し、将来自己の進むべき途につき深く考えており、少年の実母、兄弟達も、あくまで同人らの手許で少年を更生させたいと念願している、もつとも、少年は昭和三十五年八月二十四日原審において傷害保護事件で保護観察の処分を受けているが、生来直情径行の性格を有する少年であるから、充分な監督の下に生活をすれば、必ず更生し得るものと確信しているし、少年の家庭環境は良好であつて、少年に対する今後の監督、補導についても充分期待し得るところであるから、少年を中等少年院送致の処分をした原決定は著しく不当であるのでこれを取り消し、今一度少年を保護観察所の保護観察に対する処分を求めるため、本件抗告に及んだというのである。
よつて、少年調査記録を含む一件記録を調査し、少年の年令、学歴、境遇、家庭の事情、交友関係、本件非行の動機、態様その他諸般の状況について考えてみると、少年は相当要保護性の強いものであることが認められる。即ち、少年は、先きに原審で浦和保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受けた際の遵守事項に反し、埼玉県入間郡○○村公団住宅○○番に居住する実兄G方に永住しないばかりでなく、右保護観察所にも出頭せず、約二ヵ月後には何ら正当の理由がないのに実母の許から家出し、不良との交友に入り、無為徒食の挙句、またも本件非行に及んだものであつて、少年の監督、補導の責を負つた右実兄も、少年の将来に対する処置について責任のある回答がなし得ない旨を述べているのである。さすれば、少年に対しては、親権者らの手許において保護観察所の保護観察に対する処分だけでは、既に保護善導の目的を達成しがたい状態にあるものと認めるのが相当であつて、その目的を達成するためには、少年を従来の環境から切り離し、不良な交友関係から遠ざけると共に、中等少年院において紀律ある矯正教育を受けしめることが最も少年に対する適切な処置と考える。
されば、これと同趣旨に出でた原決定はまことに相当であつて少年法第三十二条本文にいわゆる著しい不当な廉はなく、本件抗告はその理由がないから、同法第三十三条第一項に則り、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 松本勝夫)